第11章 専属護衛
「申し訳ございません。会議で少し遅れました。」
リョンヤン王子の言っていた宰相のイルウォンは、そういいながら部屋に入ってきた。かなり急いでいたらしく、少し息があがっていた。
「お疲れ様です。」
リョンヤン王子は気にしていないというように読んでいた書物から顔を上げて、微笑んだ。
そしてハヨンの姿を認めたイルウォンは、ハヨンに近づき握手を求めてくる。
「あなたがハヨン殿ですね。これから王子をよろしくお願いします」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。慣れないことが多いので、戸惑うこともあると思いますが、精一杯頑張ります。」
ぞわり、とハヨンは彼の手を握ったとき、悪寒がした。一気に酷い風邪になったような。そんな抑えようもない悪寒。
(なんで…。)
表情に出そうなのをこらえる。そしてその悪寒は、イルウォンが離すと嘘のように消え去った。
(私はとくにイルウォン様に悪印象を持っている訳でもない…。でもこの悪寒、何なんだろう。…何か、嫌な予感がする。)
頭の中で警鐘が鳴る。
(なぜ?彼がやり手で、裏がありそうだから?いや、でも王とも仲が良いとリョンヤン様からお聞きした。それに、厳しそうではあるけれど、人に嫌がらせをするような弱いことは絶対にしないような人だ。)
ハヨンは自然と流れた冷や汗を拭う。
リョンヤン王子と講義をしているイルウォンをちらと見てみるが、別におかしなところもない。
「燐の国の主な輸出品は、織物、生糸、そして金属類ですが、最近は…。」
イルウォンも穏やかに話している。
ハヨンは暫くして、一つおかしなことを思い出した。
なぜかイルウォンの手は人ではないような、まるで蝋人形をさわっているような、全く体温が感じられなかったのだ。