第10章 リョンヤン王子
「最近城内は平和だなぁー。」
先輩の兵士が退屈そうにあくびをした。
「何言ってるんですか、ヒョンジェさん。平和なことはいいことですよ。」
リョンヤン王子の暗殺未遂事件以来、城では刺客が現れることも、家臣同士の嫌がらせも、また後宮での王妃同士のいさかいさえも起こらなかった。
どうやらリョンヤン王子は王子の中でもなかなかに人望があるらしく、王族を巻き込むような争いは自粛しているようだ。
そしてリョンヤン王子の存在を邪魔と思っていた者達は、怪しまれないように息を潜めているらしい。
「でもな、ハヨン。あまりに平和すぎると俺たちの存在意義が問われるだろう?」
「私たちが存在していれば、それだけ変なことを考える輩を動きづらくさせたり、規律を守らせたりできるのではないでしょうか?」
とハヨンも暇であることは間違いなかったので、いけないとは思いながらも返事をしてしまい、だんだんと哲学の問答でもしているかのような流れになってきた。
「でもな、何もないと俺たちはただのお飾り…」
「何やら楽しそうだな…。」
「わっ!ヘウォン様!」
突然のヘウォンの登場で、ヒョンジェは飛びあがり、ハヨンも身を固くする。
「このところ城内が落ち着いているから気が緩むのもわかるが…。刺客はそこをついてくる。以後気をつけろよ。」
「すみません。」
ハヨンとヒョンジェは頭を下げる。
「ところでもうすぐ交代の時間か?」
「はい、後五分ほどで…。」
「ならハヨン、お前に会いたいと仰っている方がいる。このあと俺の執務室に来い。」
「はい、わかりました。」
ヘウォンが尊敬語を使っているならそれなりの身分の人か。
ハヨンはちらっとある人の可能性を考えた。