第1章 剣士への1歩
ハヨンが武道場に呼ばれたのはかなり後の方だった。
「失礼します」
とハヨンが一礼して武道場に入ると、ヘウォンは剣を持って余裕とでもいうような笑みをみせた。
何人もの受験者と手合わせをしたというのに、少しも息を乱さずに立っている姿を見て、ハヨンはさすが、と心の中で称賛する。
ヘウォンは白虎一の強者で、王を護衛している唯一の武官だ。
他の王族はみな、二、三人は護衛がついているのにも関わらず、ヘウォンはこの10年間王の身を一度も傷つけず一人で守り抜いている。
幼い頃、父が何度も嬉しそうに彼のことを話していた。
剣の手入れも怠らない素晴らしい武人でね、何度か手入れに俺のところに来られたことがあるが、大事にされているのが伝わってきたよ。と
「随分と細っこい奴が来たもんだな。」
ヘウォンはにやりと笑う。
「細っこくてはいけませんか。」
「いや?どんな体格であろうと、使えるやつは合格だ。まぁ、結果しだいだ。ちゃっちゃと終わらせよう。」
ハヨンは外套を脱いで武道場の隅に置く。そして向かい合わせに立ったとき、ヘウォンはおっ?と声をあげる。
「お前、いい剣を持っているな。」
「ありがとうございます。」
「俺が気に入っていた刀鍛冶の親父がよくそんな形の刀を作っていた。」
父の刀を覚えているのか、とハヨンは少し嬉しくなる。父が亡くなったのはもう八年も前のことなのに、懐かしがってくれる人がいるとは思いもしなかったのだ。
そしてハヨンとヘウォンは一礼し、刀を構えた。