第7章 差し伸べられた手
「なに、あんたまた掃除してるの。」
この城に住み始めてから数日。知り合いもまだ少ないハヨンに、聞き覚えのある声がした。
振り返るとリョンが武道場の入り口に立っていた。
今日は竪琴を携えており、いったい彼はいくつ楽器が弾けるのだろうとハヨンは不思議に思いながら雑巾がけを再開した。
「またって、リョンに会ったのこれで2回目だよね?」
「いや、俺にしたら4回目。その殆んどが掃除中で中断させるのは悪いと思って声かけるのを止めたけどね。」
一介の芸人だというのに、彼はどれ程自由に城内を歩き回っているのだろう。
(もしかすると他国の手先か何かなのか…。)
新な考えが思い浮かんでしまう。
「あなた、そんなに歩き回ってるといくら王に気に入られているとは言え、怪しまれるわよ。」
「ふふふっ。そりゃ最初は何をしていると言われたものさ。でもな、俺がただ宛もなくさまよっては城の人達に演奏して回ってるのを見て、もう誰も咎めなくなったな。」
(城の警備体制を問いただしたい…。)
とりあえず城で認められているのならば執拗に追い返してもしょうがない。ハヨンはリョンの話し相手になることを決めた。
「それにしてもこれは嫌がらせだろう?新隊員がたった一人で掃除をするなんておかしな話だ。」
リョンは戸口で靴を脱ぎ、武道場の中に入ってくる。
そして勝手知ったる様子で雑巾を1枚持ってきて、床に置いてあった桶に浸した。
「…何してるの」
「何ってもちろん…手伝うんだけど?」
リョンは満面の笑みを浮かべた。