第7章 差し伸べられた手
リョンは手際よく掃除を始めた。
ハヨンも手伝ってもらうのは助かるので、断らずありがたく好意に甘えることにした。
「あんた、掃除を押し付けられて拒否しないのか。」
「…逆に目上の人に頼まれたこと、そう簡単に断れるもの?」
「…確かにな。でもこれは明らかに不公平だ。」
掃除を一通り終えて、武道場を出た二人は並んで歩く。
この前に会ったときもさっきまでもリョンは飄々としていたのだが、今は酷く険しい顔で、彼はこんな顔もできるのかとハヨンは場違いながらにも考えた。
彼は拳を握りしめ、さも自分のことのように悔しがっていた。
(変わった人だ…。)
ほんの数回しか会っていない、そしてこんなにも警戒心丸出しのものになぜ情を持てるのだろう。
「世の中不公平なのは当たり前だよ。それは町で暮らしてきたからよくわかってる。力の弱いものは強いものに呑まれる。」
「俺は納得いかないな」
「私も納得いかないわよ。…だから私はこの形をぶっ壊してやるの。」
いつかあの人の元で仕えるため。私は上にのしあがる力が欲しいのだ。
「…そうか。頑張れ。何かあったら俺にも言って。力になる。」
「はははっ。リョンは芸人じゃない。私達には全然関係無いでしょ。でもそうだね…。相談相手になってもらえると嬉しいかな。」
今回助けてもらったからだろうか。ハヨンはもう弱い所を見せたので、この人には弱さを見せてもいいと思い始めていた。