第7章 差し伸べられた手
「おい、ハヨン。」
(またか。)
先輩の隊員が話しかけてきた時、こんな先入観を持ってはいけないと思いながらもハヨンは心の中でげんなりしてしまう。
「悪いけど、武道場の掃除を頼む。こいつらに寮の掃除当番のことで説明しなきゃならないんだ。」
「わかりました。」
「あの…、先輩っ!俺らも手伝った後で教えていただくのはいけませんか。」
ガンハンがおそるおそるといったふうに問う横で、ドマンも頷いていた。
「駄目だ。お前らこのあと時間とれるのは訓練後しか無いだろ?そのくせ部屋戻ったらお前らすぐに寝るし。」
うっ。と反論出来ず、言葉に詰まった二人は、ハヨンに申し訳なさそうな顔をしながら先輩達についていった。
硬く雑巾を絞りながら、ハヨンは深くため息をつく。
殴られたり悪態をつかれるなどの嫌がらせは受けてはいないものの、ハヨンはしょっちゅう雑用を頼まれては休み時間のほとんどを掃除に費やしたり、自分も訓練をしたいのに、上官に伝令として遣われることがある。
下っ端という立場ならガンハンとドマンも同じなのにも関わらず、なにかと理由をつけてハヨンばかり雑用をしていた。
ハイルも副隊長であり、王妃の警護をしている身でもあるので、なかなか訓練に顔を出さず、先輩達はやりたい放題である。
また、ハヨンは下っ端であるし、相手は一応ものを頼むという体なのでなかなか断りづらい。
この連鎖を断ち切るにはどうすれば良いのだろう。
ハヨンは悩みを振りきるように勢いよく雑巾がけを始めた。