第6章 城での生活
次の日の早朝にハヨンは目覚めた。もう少し寝ていても良かったのだが、どうやら緊張しているらしい。いつもより睡眠が浅い。
昨日は食事や風呂に入るとき、見なれないからか女官や下女達から注目を浴びるはめとなり、心が休まる場所は自分の部屋だけだった。
また、自分の歩む道が決して平坦では無いことがわかっているので、気をはりつめていたのだろう。
「これから先、こんな神経ではもたないな…。」
とハヨンは自分に喝を入れてから寝台から起き上がった。
昨日ハイルから受け取った制服に袖を通し、いっそのこと今から城内のことを知っておこうと足を踏み入れることが許されている庭に足を向ける。
しかしそこにはもう先客がいた。
官僚の誰かだろうかと身を強ばらせたが、出で立ちがどうも軽装で、次第に侵入者という考えが浮かんでくる。
「やぁ、朝早いね。馬の世話にでも行くの?」
とうの本人はのんびりとそんな挨拶までしてくる。どう対応すれば良いものか、と迷ったがとりあえず名のってもらうことにした。
「あの、あなたは…。」
彼は酷く驚いた様子だったが、再び元の笑顔になる。
「俺はただの芸人だよ。よく王宮の宴会に呼ばれるんだけど…。君、もしかして新人?白虎隊の人なら俺の顔を知っている人多いと思うんだけど…。」
「そうなんですか。たしかに、私は最近入ったので、まだ城のことには疎くて…。」
彼が笛を取り出すのを見て、本当かもしれないと少し警戒を緩める。
「しかしなぜ今この場所に?宴会はとうに終わっているでしょう。」
「実は秘密にして欲しいんだけどね。」
と彼は声をひそめる。何事かと少し彼に近づけばとんでもないことを明かした。
「実はある女官の子に気に入られちゃってね。ちょっと夜を共に過ごしたと言いましょうか…。」
思わず彼から数歩離れてしまう。
(軽い…)
彼の印象が悪い方へと転がっていった。