第1章 剣士への1歩
先程の娘はウンソクに言われた通りに白虎の試験の間に向かう。
彼女の歩くその姿は背筋を伸ばし、無駄の無い動きで、顔と線の細ささえ目を瞑れば、一人の立派な戦士とみられるだろう。
娘は白虎の試験の間の前に立つ、二人の衛兵を前にする。
「お前は白虎の試験を受けに来た者か。」
娘から向かって右側に立つ衛兵が低い声で尋ねる。
「はい。」
「お前の身分を名乗れ。」
城に入っているのだから、怪しい者は通せない。衛兵二人が槍で交差させて阻む先の門は、厳めく、この試験がいかに厳重に行われているかがうかがえる。
娘は笠を外し、顔をさらす。
「チュ・ハヨン。16歳。父は王族御用達の刀鍛冶でした。私は女剣士となるため白虎の試験を受けに参りました。」
娘の顔は不敵な笑みが浮かんでいた。
「女だと…?」
二人の衛兵は思わず顔を見合わせる。それもそのはず、この燐(りん)の国では今まで女の兵士など一度も存在したことがなかったからである。
「ではチュ・ハヨンよ。この門を入ることを許す。」
衛兵は少しの間話し合っていたが、自分達の一存で通す通さないを決めるのは駄目だ。という意見に達したらしい。ハヨンのために道を空ける。
「ありがとう。」
彼女は羽織っていた外套を翻しながら白虎の間へと向かう。
衛兵はその後ろ姿を見て、なぜ女の癖に、男のいでたちがこんなにも似合うのだろうとぼんやりと考えた。余りにも自分の考える常識とかけ離れたことが起こり、頭を働かせることが難しいように思えた。
「あいつ、なんだったんだ。」
「なぁ。」
隣にいた衛兵も同意する。
二人の衛兵は、何かが起こる予感がした。