第4章 旅立ち
ついにハヨンが自分の家で眠る最後の夜になった。
チャンヒはいつもよりもずっと豪華な料理を並べ、親子水入らずと気をきかせたのか帰ってきた日以外顔を見せなかったヨウも夕飯の食事の時には姿を現した。
「餞別にこれをやる。大事に使えよ。」
食事を終えてからヨウはそう言ってハヨンに包みを渡した。
「今、ここで見てもいいですか?」
「ああ。」
ハヨンが包みを開けると、中から2つの黒く光る刃が入っていた。
(暗器に似ているけど、少し形状が違う…。)
四方に尖った刃がついていて、このようすだと、横に滑らせるようにして投げるものに思える。
「あの、これはいったい…。」
「俺の母国ではこういう暗器が使われる。もしかすると遠距離からの攻撃をせにゃならん時が来るかもしれん。かといって王宮で弓を持ち歩くのは物騒だし大変だろう。それにお前の運動神経ならこれを使いこなせるはずだ。」
「ありがとうございます。」
ハヨンは頭を下げる。
(そもそもいつから王宮で本格的な護衛をさせて貰えるのか全く見通しがたたない…。これが役立つ時のために練習しなければ。)
ハヨンは手を切らないようにきをつけながらそっと暗器を撫でる。
「お母さんからはこれよ。」
横でハヨンのようすを見ていたチャンヒも包み紙を渡した。
チャンヒからの贈り物は靴で動きやすいよう、長靴(足首まである戦闘用の靴)だった。皮でできている本格的なもので、チャンヒが長い間仕事で忙しそうにしていた理由は、これを買うためだったのだとハヨンは理解した。
「ハヨン、頑張ってね。お母さん、ハヨンの近くにいてあげることはできないけれど、ずっと応援しているから。」
(こんなにしてくれるなんて、もう十分応援されている。)
ハヨンは目に涙が滲みそうになるのを必死に耐えていた。
父を亡くし、女手ひとつで子供を育てた母。剣士になりたいと言い出し、周りから嘲笑れていたハヨンと共に戦ってくれた母。今のハヨンは全てチャンヒがいるからこそなのだ。
「母さん、ありがとう。」
ハヨンは今までの感謝の念を込めて頭を下げた。