第4章 旅立ち
「忘れ物はない?」
「母さん、それもう5回目だよ。大丈夫。全部荷物は持ったし、重たいものは全て一昨日の間に運んで貰ったでしょう?」
ハヨンはチャンヒの言葉に苦笑いする。
やはり10年近く住んでいたこの小さな家は、簡単に片付けを終えることができないほど、たくさんの思い出の品があった。全てを処分してしまうのはあまりにも忍びなく、何度も片付ける手を止めそうになった。
ハヨンは試験に合格してからの数日を思い返し、思わず顔をほころばせる。
この数日間は、10年間で最ものんびりと過ごした日だったかもしれない。
(毎日鍛練、鍛練と忙しくて、母さんには寂しい思いをさせたかもしれないな。)
ハヨンはわずかな荷物を背中に背負い、戸口に向かう。
「じゃあ母さん、行ってきます。私がいない間、ケガとか病気とかしないように気をつけて。」
「そうね。いつも気にかけてくれたハヨンもいないし、これからは私ももっとしっかりしなければね。」
「…行ってきます。」
チャンヒの寂しさを押し殺した笑顔を見てハヨンはいたたまれなくなり、慌てて戸の方へと体を向けて、顔を隠す。
「行ってらっしゃい。」
母の柔らかな声に押し出されるように、ハヨンは外へと足を踏み出した。