第3章 遠き日の思い出
「白虎に入るために武術を身につけたいから俺の弟子にしてくれだと?」
「はい」
ハヨンが剣士になることを志して間もない頃、近所に住む強いと評判の男がいた。彼は遠い東の国からやって来たらしく、変わった衣装を着ており彼がやって来た頃は皆の注目の的であった。
彼は武人だったらしく、この町に住み着いてから間もなく道場を開いた。彼の教える武術は異国のものなのか一風変わっていたうえに、燐の言葉を上手く話せない彼の指導はなかなかに難しかったらしい。
興味本意で始めたものは数えきれないほどいたが、道場に残った者は片手で数えられる程だった。
強くなれると評判の道場でもないのに、この国でも最強の部隊に入りたいからと教えを請いに来て、さらにそれが女だったのだから、ヨウは面食らったのだろう。
ハヨンの言葉を聞いたとき、彼は訝しげな顔をしていた。後にハヨンが本人にこのときのことを尋ねると、冷やかしに来たのかと思った。と答えていたので、十中八九怪しんでいたのだろう。
「そんなもの、到底叶えられるものではないぞ。」
しばらく黙ったままだった彼はそうポツリと呟き、眉間に皺を寄せたまま厳しい目をハヨンに向けた。
「重々承知しています。」
ハヨンがその視線を受け止めながら、そう強く返事をすると、
「お前、変わっているな。」
とヨウは笑っていた。
それから始まった鍛練はかなり厳しいものだった。
これについていけなければ、容赦なくお前を見捨てるぞ。と何度も言われ、ハヨンは必死に食らいついていった。
彼の教えは厳しかったが、ハヨンのことを大事に思ってくれてはいたようで、鍛練の時間以外の優しさはハヨンにとって心地のいいものだった。