第3章 遠き日の思い出
全ては自分の身と母の命を救って貰ったことへの恩返しのため。そしてもし恩人に出会えたとしたら、心を込めて礼を言って、自分の務めを全うすることで助けて貰った分を助けたいと常々思っていた。
(最初に白虎に入りたいって母さんに言ったときは驚いていたなぁ。まぁ、普通誰でも驚くと思うけど。)
チャンヒがすっかり元気になった頃、ハヨンが思いを打ち明けたときの彼女の顔は忘れられない。
燐の国では女性は戦には関わらない風習があり、生涯武器を触ることさえ無い女性も少なくない。
武器にふれあう機会がある女性はせめて武器商人や鍛冶屋の妻ぐらいだろう。
武器を手にし、それを使って生涯を生きていくという女など、物語でもない。
チャンヒが驚きながらも案外すんなりと受け入れたのは、どんなに反対されても自分の意思を貫こうとするハヨンの性格を知っていたことが一番大きいだろう。
(母さんはいつも私のために応援してくれる。本当に母さんには頭があがらないな…。)
また、ハヨンにとって感謝してもしつくせない相手はまだ二人いる。母が病にかかってから、手伝いとしてハヨンを雇い、何かと世話をやいてくれた医術師のヒョンテと女で剣士を目指すハヨンを厳しく指導した師匠のヨウだ。