第3章 遠き日の思い出
一方ヒョンテはハヨンが鍛練の無い時間帯に、助手として手伝いをすることを許し、ハヨンは医術の知識を増やしていった。
彼はヨウとは対照的に穏やかで、いつも静かに話した。ハヨンの年が15になるとき王都に移り住み、それからは文でのやり取りをしている。どうやら小さな診療所を開き、そこそこ上手くいっているようだ。
ヒョンテはハヨンと出会った頃から王都で診療所を持ちたいと願っていて、王都にヒョンテでも買える空き家が売りに出るのをずっと待っていたのだった。
ヒョンテはハヨンの決意も笑わずに聞いて、兵士になっても一人で応急手当てができるようにと惜しみなくヒョンテのもてるだけの知識を伝えてくれた。
彼女にとっては、ヒョンテはいつまでもお世話になっているような気がして、彼にも恩返しを必ずしたいと長年思っていた。
(ヒョンテさんは次に王都に向かうときに報告しようかな…。やっぱりこういうのは直接言いたいし…。)
ハヨンはそう考えながら家に続く上り坂を歩いていると、ようやく家の屋根の部分が見えてくる。
もうとっくに息切れもせずに登れるようになったこの急な坂道は、ヨウとハヨンの鍛練の場となっていた。
汗を流しながら息をきらして登っていた昔の自分を思いだし、ハヨンは少し懐かしく思った。
(私、少しは強くなったのだろうか。)
自分の強さに自信を持て、しかし決して自惚れるな、というヨウの言葉はなかなかに難しい言葉だった。
自分を強いと思ってしまえば自惚れてしまいそうで、しかし弱いかと問われれば燐一の部隊、白虎に入ることになったわけで、弱いわけでもない。
ただ、ヘウォンの強さに圧倒されたのでまだまだ自分にはやるべきことがたくさんあることはわかりきっていた。