第3章 遠き日の思い出
そんなある日、ハヨンは浮き足立ちながら家路についていた。
チャンヒが快方に向かっており、医術師も今回渡す薬を飲みきる頃には元気になっているだろう、と約束通り薬を渡してくれたからだ。
(母さんが元気になる…!)
そう思って気がはやり、思わず走り出してしまう。しかし周りを見ていなかったので、通りがかった人にぶつかった。
「…いってぇなぁ。何すんだこのくそがき。」
ぶつかった男はハヨンを睨み付け、連れの男はすごんでいた。
(確かこの人達は…!)
悪党で有名で、街の人からも恐れられている武器商人だ。しかし、武器商人とは表向きで、実は薬や人を裏で取り引きしているとも言われている。
ハヨンはさっと青ざめる。
「ご、ごめんなさい!」
「お前のせいでさっき足を痛めたみたいだ。おい、なんとかしろよ。せめて治療費ぐらい出せ。」
噂通りの悪党で、無理難題を突きつけてくる。
「私の家は貧しいから…。お金なんて持ってないです…。」
「じゃあその手に持っている袋の中身は何だ?者によってはそれで手を打とうじゃねぇか。」
「だ、だめ。これは母さんの大事な薬だから…。」
思わずハヨンは薬の入った袋をしっかりと抱え直しながら後ずさる。
「ふーん?そんなの知ったっちゃねぇわ!」
ぶつかった男に腕を捕まれる。
「じゃあお前が見世物小屋にでも入るか?変わった目をしているし、顔もなかなか上玉だから売ったら金も入りそうだしなぁ。」
「やだ!」
ハヨンは逃げようともがくが無駄な抵抗だった。男の腕はびくともしない。