第3章 遠き日の思い出
父が死んで間もない頃だった。父が鍛冶屋を営んでいたことで生計を立てていたハヨン達は、稼ぐ術を失い、家を引き払って王都から遠く離れたさびれた街の小さな家に移り住んだ。
母のチャンヒはなんとかその街の地主の屋敷の厨房で働くことになり、食いつなぐ程度には稼げていた。
前のように豊かな生活でも無いが、なんとか生きていける。そうハヨンとチャンヒが思っていた矢先、またしても危機が訪れた。
チャンヒが重い病にかかったのだ。
ハヨンはチャンヒが貯めていたほんの少しの貯金の大半を使って医術師に診てもらい、そして薬を貰った。
「これはかなり高価な薬だ。お母さんの病は時間をかければ治せる。もし良かったら俺の手伝いをしてくれないだろうか。そのかわりに薬が足りなくなったらその分を渡すし、食事ぐらいならなんとかなるぐらいの報酬もやる。」
医術師は様々な街に出向いて治療をしていたので、それなりに稼いでいたのだろう。幼いハヨンにできる手伝いなど限られていただろうに、親切にそう提案した。
(薬があれば母さんは助かる…。)
「はい。よろしくお願いします」
そしてハヨンは毎日街の外れから医術師のいる街の中心地まで通うようになったのだった。