第20章 幸となるか不幸となるか
ハヨンとの手合わせを終えてから、わずかにヨンホと城の者たちとの会話が和やかなものになった。
リョンヤンも堅苦しい表情と言葉遣いをやめ、いつもの穏やかな笑顔と、優しい言葉遣いでヨンホとしきりに話している。
ヨンホも時折口の端に笑みを浮かべているのをハヨンは見逃さなかった。
「ここで城の案内は一通り終わりました。今から用意させればちょうど予定していた宴の時間になるので、手配しますが、宴の時間までどうなさいますか?」
「そうだな。私はあなたと二人でお話したいことがあるのです。よろしいでしょうか。」
「はい。構いませんよ。」
リョンヤンはハヨン以外の者をその場から退出させ、ヨンホも、自分の護衛者以外は部屋に待機しているよう伝える。そのままリョンヤンの執務室に向かったが、その道すがらはようやく和んだ空気がもう一度張りつめ、何者かが言葉を発せば何かがもろく壊れていきそうな感覚をハヨンは覚えた。
ハヨンは何があってもすぐに動けるよう、こっそりと隠し持ってた暗器を出しやすい位置に移動させたり、衣を動きやすいように少し整え直す。
そうあっては欲しくないが、こうして国の権力者が二人で会うなど、不穏な動きがあってもおかしく無いのだ。露骨に暗殺などは行わないだろうが、こっそり毒を部屋にしこんだりする可能性もありうる。そのため護衛者はこういう場ではいつも以上に相手を注意深く見る必要があるのだ。
(私の本当の仕事はきっとここからだ…。)
護衛者というものは、主人の内密な話でもその場にいないものとして扱われて平然と聞くことができる。いない存在だからこそ、どんな話であっても、例えば誰かの暗殺計画の話だとしても決して口外してはならないのだ。
今回の仕事で、ハヨンとリョンヤンはより深く秘密を抱えることとなる。これからはさらに護衛者としての行動について慎重にならねばならないことが増えるだろう。
ハヨンはこうして自分が国の重要なことに巻き込まれていくことに、不安と興奮が入り交じった妙な気分を味わうのだった。