第20章 幸となるか不幸となるか
しかし、ハヨンが下がりきった後、稲妻のような速さでヨンホがハヨンに一文字に刀を振った。
その速さは希に見るもので、何年も兵士として城に勤めているハイルでさえ目を見張るほどだ。
「あの速さはなんでしょうね。あの体格の男にはあり得ないぐらいの素早さですね。」
部下も彼におののいている。
その後は今までの静けさはどこに行ったのやら、二人は激しく刀を突き合わせた。刀が激しくぶつかる金属音が狭い道場に鳴り響く。
皆は息を潜めて二人の勝敗を見守った。
一連の動作はどちらも洗練されており、戦いではなく、舞いを舞っているかのように滑らかに動いた。二人は息もきらさず次の動作へ、次の動作へと進んで行く。
しかし体力や腕力の差は流石に現れる。ハヨンの刀はついにヨンホによってなぎはらわれ、そのまま床に落ちた。
今まで静まりかえっていた道場にどよめきがおこる。
誰もがここで試合が終わったかと思ったが、次の彼女の動作でさらにどよめきは増した。
ハヨンは刀を持たないまま、独特な体術の構えをとったのである。
「ほう、まだ戦えるというわけか」
「はい。その通りでございます。私の特技は刀だけではないのです。」
ハヨンが荒く息をしながらそう答えた。
ハイルは頭が痛くなった気がした。
(そうだ、ハヨンはすぐに諦める人ではなかった…。普段が礼儀正しいから忘れていましたが、もともと前代未聞の女人の兵士として志願するような人なのだし、あのときもやたらと自信に満ちていた…。その自信は確かに実力には伴っているので問題はありませんが、流石に王子相手では…。)
しかし人はある境地に入ると、好戦的になることがある。それはハイルにも経験があるので、彼女の行動を理解できない訳ではなかった。