第20章 幸となるか不幸となるか
「おおよそですが八千人の兵士が常駐しております。」
燐の国も、国土はそこそこ大きいものの人口は大国にしては少し少ない。城全体を守るのにはぎりぎりの数だ。
「そうか…」
何やらヨンホは顎に手をやり、考え込んでいるようだ。顎を少し触りながら考えるのは癖らしい。
そうして寮を一通り案内し終えたあと、武道場に向かう途中で彼の目付きが変わった。
ハヨンはそのときなぜ彼の様子が違うのか手に取るようにわかった。彼は手合わせしたいのだ。
戦いというのは本来野蛮と言われてもしょうがないものだ。それに戦うことに喜びを覚えてはいけない。それは人を傷つけるために存在するものだからだ。しかしあの戦うことの高揚感、緊張感そういったものに人は魅せられやすい。
ハヨンもそれを重々承知しているが、戦うことを止めろといわれたら、はい等と簡単には答えられなくなっている。
人が声をあげ、刀と刀を突き合わせる音を聴けば気が高ぶってくるのだ。もはやこれは戦うものの定めと言っても過言ではない。
「練習を見学なさいますか?」
ハヨンはヨンホの気持ちをくんでそう尋ねると、彼は初めこそ驚いたものの、何やらハヨンに妙な笑みをみせた。
(なんだろう、嬉しいから笑ったという訳でもなさそうだ)
ハヨンは無表情なヨンホが何を考えているのかわからないため、少し怖く思える。
武道場に入るとその場にいた兵士の皆が一斉に手を止めた。そして慌てて膝をつく敬礼をする。
「私のことは構わないでくれ。」
ヨンホがそう声をかけ、皆が練習に戻ったところをじっと見つめる。