第20章 幸となるか不幸となるか
「ようこそお越しくださいました。ソンホ殿。」
馬から降り立った滓の第二王子にリョンヤンはそう出迎える。
王子ならば疲れぬよう牛車などで訪れてもおかしくは無いのだが、やはり武術の盛んな国だからだろうか。自ら馬に乗り、先陣をきってソンホはやって来た。
「いえ、こちらこそお招きいただきまことにありがとうございます。」
ソンホの固い言葉に、ハヨンはリョンヤンには無いものを感じる。
リョンヤンは柔らかい雰囲気を纏っており、人びとの争いをやんわりといさめたり、波風立てること無く物事を進めるので、穏和な印象だ。
逆にソンホは体格もよく、よく日焼けした厳めしい顔はまさに戦士の顔そのものといった様子だ。その上何があったのかは知らないが、彼の右腕に白い古傷がはしっている。
二人とも正反対の性格のように思えるのでハヨンはこの二人の馬があうようには思えなかった。
「はい。まず長旅でお疲れでしょう。部屋を用意いたしましたので、疲れをおとりください。」
そうリョンヤンは笑顔を見せながら言うと、ソンホは
「少し失礼。」
と言って彼の後ろに控える一団のもとへ向かう。
王子の話をたちきってまで話すこととは何だ、と側に控えていたリョンヤンの従者達が少しいぶかしげな表情に変わるのをハヨンは見てしまう。
少ししてソンホが戻ってきたとき、
「他の者にも尋ねましたが、誰も疲れておりません。もしよろしければ予定を早めてはいただけ無いだろうか。」
この言葉にリョンヤン側の従者達は面食らったようだ。
「今回の訪問は、ただの視察ではないのです。リョンヤン殿と話し合いたいことがある。申し訳ないのだが、予定通りに進めることは難しい」
どうやら一波乱有りそうな様子で、怪しい雲行きにみなが不安な様子だった