第19章 まがいものの関係
ハヨンはこの忙しい間にぽつんとできた暇な時間に困っていた。
(どうしよう。何もすることがない…)
人は忙しいことにいつの間にか慣れてしまうのだろうか。ハヨンは久しぶりに休めるというのに不安を感じていた。
(何か練習しようかな…。)
ハヨンはそう考えて、いつもの中庭へと移動を始めた。
「やや。これはこれはハヨン様ではありませんか。」
突然廊下で声をかれられ、ハヨンは誰だと思い振り返る。以前宴会に参加していた貴族のようだった。
「キル・アンビョ様。お久しぶりです」
ハヨンが軽く礼をすると、彼は会釈を返す。
「良かった。前からあなたと話がしたかったのです。」
ハヨンはその言葉を聞いて何やら嫌な考えが頭に浮かんだ。
(まさか彼があの貴族じゃあないでしょうね…)
叔父の家を訪ねた貴族だとしたら話がややこしくなりそうだ。ハヨンは内心頭を抱えた。
「私はあなたにあった日、感じたのです。あなたほど私にふさわしい方はいないと!」
とうとうハヨンの手を握って語りだしたので、ハヨンの予想は的中した。
(なんだろうこの恋の唄みたいな台詞は)
ハヨンはあきれ返ったが、そのまま手を握られて話続けられても困る。とにかくすっぱり離れることだと決めた。
「あの。すみません。私今から仕事があるので離していただけませんか。」
ハヨンはできるだけ穏便に事を済ませようと笑顔で言ったのだが、彼には何やら逆効果だったらしい。
「おや、恥ずかしがらなくてもいいのですよ。まぁそこが可愛らしいのですが。」
どうしてこうもまた甘ったるい言葉が次々と飛び出るのだろうとハヨンは開いた口が塞がらなかった。