第17章 褒美
「…じゃあ俺たちはそろそろ隣町に行こうかな。ごめんな、長いこといれなくて」
「いいのよ!こんなにみんなが明るくなってくれたならそれで十分。リョン、どうもありがとう。」
ユナがリョンに頬笑む。
「悪いね、今大したものは持ってないんだ」
と言いながら何人かの母親がそれぞれ野菜を持ち寄ってリョンに渡そうとした。
「今日は何もいりません。みなさんが無事な姿で、俺の歌で元気になってくれたことで十分俺の糧です。」
リョンは笑ってやんわりと押し返す。
「そんなこと言って。あんたいつもほとんど受け取らないじゃないか。こんなご時世食べ物がなかったら生きていけないよ。」
その女性の言葉にリョンは少し苦しげな表情をちらつかせたが、すぐに笑い
「大丈夫です。俺、貴族に囲われてますから」
とおどけて言って見せる。
(…そうだ、リョンは本当のこと隠すのが辛いんだ)
リョンは本当はみんなの年貢で空腹と言うものを味わったことがないほど恵まれた環境にいる。
自分が裕福に暮らせるほど、皆が苦しい思いをするのだ。
「…そうかい。本当のところ私たちも生活が苦しい。そう言われると野菜をもって帰ってしまうけれど、本当に大丈夫かい?」
「はい。」
そう笑うリョンの笑みの下にはどれ程の苦しみが隠されているのだろう。リョンの握りしめている拳が、痛いくらいに手に食い込んでいるのを見て、ハヨンは少し目をそらした。
「じゃあまた来るから、みんな元気で。」
行こうとリョンに言われてハヨンは歩き出す。
町を去る間何度もリョンとハヨンは振り返って見送る人々に手を振るのだった。