第16章 深まる謎
一日の仕事を終えて、自分の部屋へ戻る間、ハヨンは今日見聞きしたことを頭の中で繋ぎ合わせていた。
(昨日の今日だからみんな酷く怯えていた。宴の間を片付けた侍女たちから様子を聞いたんだろうな。)
暗殺者を牢へと連れていったあと、侍女が片付けにやって来たのだが、あのとき彼女達は随分と怯えていた。
無理もない。床には料理が散乱し、戸は外れかかっていて、ところどころに血が飛び散っていた。兵士でもない彼女たちには見なれないものだ。
そんな話を城の者と話せば次々に噂が飛び交うことになる。今日は暗殺者のことばかりを耳にした。
しかし暗殺者の話と言っても、少し違ったものもあり、「リョンヘ様もこれから大変だろう…」という者もちらほらといたのだ。
(リョンとどういう関係があるんだろう。)
ハヨンはどうやらしっかりと前を見ていなかったようだ。向かい側から歩いてきた女官二人にぶつかる。
「ごめんなさい。大丈夫?」
ハヨンはほぼ反射的にそう言って相手を見ると、
「え、ええ。大丈夫よ。私もちゃんと見てなかったから。ごめんなさいね。」
といって少し早足で去っていく。
「彼女よ!そのおぞましい暗殺者と戦った人!」
「怒らせない方がいいわね。」
と聞こえないように言っているつもりだが、興奮しているのかハヨンにも十分聞き取れた。
最初は疎ましがられて次は恐がられるなんて、おかしなことだ。とハヨンは自嘲ぎみに笑ったが、まあ嫌がらせをされるよりましだと思えた。
ようやく部屋にたどり着いて寝台に座り込むと、今までに知った情報を繋ぎ合わせて行く。
そのときハヨンは暗殺者の彼がどういう経緯であの貴族に雇われたかを皮切りにあることに気がついた。