第16章 深まる謎
「私は即刻お二人とも死刑にすべきだと思ったのですがね。」
少し不満げな声が聞こえて振り返ると、納得行かないという表情を浮かべた宰相が立っていた。
「まぁまぁ、イルウォン殿。誰も死傷者は出ていませんし、あの貴族は身寄りの無い彼を不憫に思って雇い、陛下のために短剣を献上しようとしただけのこと。彼の保護者として責任は負いますが、死をもって償えというのは酷ではないでしょうか?」
そう言われて宰相は立っていた戸口から早足でリョンヤンに近づいていく。ハヨンの前を通りすぎたとき、あまりにも険悪な雰囲気を纏っていたからか、冷気を感じたようにも思えた。
「甘い!甘いですよリョンヤン殿下!そんな結果ばかりを見ていては世の中が乱れてしまいます!あなたは仮にもこの国をリョンヘ様達と背負うお立場です!それなのにそう呑気に構えていてはいつか危ない目に逢われますよ。」
烈火のごとく怒る宰相を見て、リョンヤンは苦笑いをした。
「でも実際に何か手を下した訳でもない人が罰を受けてはそれこそ世が乱れませんか?人々は不審がり、王族に疑問を持ちます。」
静かに答えたリョンヤンを見て、何を言っても無駄だと思ったらしい。宰相は少し黙りこんだが、暫くして顔を明るくして言った
「ではリョンヤン殿下、今日はより殿下の考えを深めていただくために、殿下の大好きなこの国の法律について学びましょう。」
「あ…いや、私が好きなのは地学でして…」
どうやら法学は苦手のようだ。宰相はますます笑顔になる。
「いいえ、あんなに考えをお持ちでしたら苦手なはずがございません。では始めますよ。」
少しリョンヤンへの当てつけが入っているであろう講義が始まる。
(宰相様もなかなか腹の底が見えない人だ。)
ハヨンはその笑みの下に隠れる腹黒さを記憶に刻みつけておくことにした。