第15章 宴にて交わされるのは杯か思惑か
(何だかこの従者、様子がおかしい…!)
何だか我を忘れているような。そんな雰囲気だ。目も遠いどこかを見ているようなのに、ハヨンたちの位置を正確に掴み、攻撃をする。
(でも私たちやみんなの命がかかっているから…)
ごめんなさいと心の中で詫びてから懐から暗器をとり出し彼に投げつけた。彼の体に刺さるが、彼は痛みよりも怒りが勝っているようで、獣のようなうなり声をあげながらハヨンに近づく。
(もう、武器は何も持っていない。)
そもそもあまりにも武装していると怪しまれるので、暗器と短剣しか持っていなかった。その暗器は彼の体に刺さり、短刀は宴会場の端まで飛ばされた。
ハヨンはもう、どうにでもなれと意を決して茶碗やそこらじゅうに散らばっているものを投げつける。
(まだ死ぬわけにはいかない…!)
恩人にも会えていないし、母や師匠のヨウのためにも生き延びねばならない。
ハヨンはじりじりと壁際に追い詰められあと少しで彼の手が届きそうになった時だった。
何か強い光が突如現れて、ハヨンは咄嗟に目を瞑る。
従者は悪魔の断末魔のような声をあげた。
暫くして従者の声がぱたりと止み、光が消えたように感じたのでハヨンが目を開けると、目の前に従者が倒れていた。
(…助かった。)
しかしハヨンは彼の姿を見て驚きの声をあげる。彼は全身に軽度ではあるが、火傷を負っていた。
薄気味悪くて、喉から声がでなくなる。
(何の仕業なんだろう…。)
ハヨンが呆然と立ち尽くしていると、ばたばたと足音が聞こえた。
「大丈夫か…!」
どうやら援軍が遅れてやって来たらしい。