第15章 宴にて交わされるのは杯か思惑か
青年の従者が頭をたれ、恭しく差し出したものは、綺麗な宝石が埋め込まれた短刀だった。
「何かが起こっても陛下が身を守れるよう、この短刀は軽く、鋭くできております。それに異国独特の装飾ですので人目について、陛下が警戒しておられることが伝わるかと思います。」
セヒョン王のためを思ってと聞き、王は嬉しそうに顔を綻ばせた。
(根が優しい方なのだな…。)
今まで面と向かって王を拝見したことはなかったのだが、ハヨンはこの方がいてこそのリョンヤンとリョンヘだ、と思えた。
少しその忠義心に厚い側近である臣下の貴族と、臣下を大切に思っている王の姿に和んでいたら、唐突に悪寒が走り抜けた。
(まただ…!)
と気づいたときには、ハヨンは貴族の従者が振りおろした短剣を受け止めていた。
(…さっきまでの記憶が全然無い…!でも、今は陛下達を守らねば…!)
どうやら従者は隙を見てセヒョン王に差し出そうとしていた短剣を鞘から抜き、斬りかかろうとしたようだった。
(…体格がいいし、私が受け止めているから、向こうの方が有利なのは分かる。でも…)
これまでに無いほどの力の強さに、奥歯を食い縛った。
少し押されぎみになったが、なんとかもちこたえる。他の隊員も加わって、宴会にいた人達を避難させ、残りの二人が従者を羽交い締めにしようとする。
(なんでこんなに力が強くて、いきなりこんなに殺気だっているの…?)
普通の人物なら、こんなに強い殺気を押し殺すことはできない。
しかも従者は二人の隊員を片腕で凪ぎ払った。
「…っぐ!」 「かはっ…!」
二人が壁際まで飛ばされる。
従者は人間とは思えない叫び声を発した。