第14章 新しい仕事
獣を操る能力が無いことはまあ、いろいろと謎が解けたので良いとして、ハヨンはリョンヤンの言っていたもうひとつのことが気になっていた。
「あの、記憶が無いというのは…。」
「私が風邪をひいたとき、一度だけリョンヘは一人で町に出たことがあるんです。どうやら私の好きな菓子を買いに行っていたようですね。でも、いつまでも帰ってこないので、大騒ぎになったんです。そうしたら夜に城の前に意識を失ったリョンヘが倒れていたんです。
王族を表す剣の紋章と、私に買ってくると約束していた菓子があったので、間違いなく王子のリョンヘだとわかりました。」
そのとき、リョンヤンは目を伏せる。長い睫毛が、目元に影をつくった。
「そのあと目を覚ました彼は記憶を失い、もともと持っていた獣を操る能力も失いました。ですから正しく言えば操れないのではなく、操れなくなったんです。」
リョンヘにはそれは人生が大きく変わってしまった一つの出来事だろう。しかし、本人には記憶がないのでなんとも言えないが。
リョンヤンは伏せていた目をハヨンの方に向け、意を決したような目に変わる。
ハヨンはその勢いに圧倒された。
「一つお願いがあるんです。リョンヘはこの他にも様々な奇妙なことに出くわしています。私としてはこれは何かに狙われているとしか思えないのです。ですから、もしあなたがリョンヘと行動を共にする機会があれば、そのときは彼を守ってはもらえませんか。」
それはハヨンと会っているときのことを注しているのか。言葉の深いところまでは汲み取れなかったが、ハヨンはリョンヤンの言葉に頷く。
「わかりました。」
その返事にリョンヤンはありがとうと呟いたのだった。