第1章 剣士への1歩
しかしハヨンには弱点があった。
ヘウォンはその弱点にはとうに気がついていた。
細身のために素早いが力は弱い。
これが町人の力比べなら勝算はあるが、白虎では敵国の鍛えぬかれた刺客や武人と戦わねばならぬときもある。そのようなとき、このものはどのようにして王達を守り抜くのだろうか。
彼にとってそれは一番の疑問だった。
ヘウォンは力一杯拳でハヨンに殴りにかかる。
これで対応できなければ、こいつは失格だ。
ヘウォンはそう考えながら拳をハヨンの腹に叩き込もうとする。
しかし気がつけば彼の視界は反転し、床に転がっていた。
「ヘウォン様、膝をつかれましたので私の勝ちと言うことでよろしいでしょうか。」
ヘウォンは何が起こったのかしばし解らなかったが、だんだん頭の中で整理がつき、ハヨンに尋ねる。
「この武術、燐には無いものだな?」
「はい、私の師匠ははるか東の国から渡ってきたかたで、私は師匠の国で一般的な武術を教えていただいておりました。」
はるか東の国か。
ヘウォンにとっては他国は王の外交で関わるだけで何も学んだことはなく、文化についてはほぼ未知と言ってよかった。
「どのようにこんな巨体をひっくり返せたのか、なかなか興味深いな。また教えてはくれないか、少年よ。」
ヘウォンがそう言うと、ハヨンは目を瞬かせ、審判をしていた副隊長のハイルがブッと吹き出した。
ヘウォンが何がおかしいのだろうと首を傾げていると、ハイルが笑いながら指摘した。
「ヘウォンさん、彼女はれっきとした女性ですよ。」