
第3章 いよいよ開始! 男装生活~日常~

人の居ないところを探し求めて三千里ー正しく言えばそんなに距離は無いが気分としてはそのくらい疲れたのだーした僕が漸く見付けたのは『第五理科準備室』だった。
いや、理科室どれだけあるの……?!
戸惑いながらも僕は室内へ入る。何故か鍵は開いていた。さっさと着替えを済ませようと思い、どうせ誰もいないのだからと思い切って上を脱いだ瞬間だった。
がらり、と扉の開く音がする。
「え、誰?」
きょとん、と言った声の主は生徒、の筈だった。そう言うのも、身長が高く大人と見間違える程あるのだ。しかも、知的で落ち着いている、所謂インテリアな雰囲気を纏っている。しかし、服装は明らかに生徒のそれ。しかも、目はまるで悪戯っ子のように鈍く輝いており、どこか不安定だ。
「あ、僕は……!」
「ねぇ、それ……。」
混乱で言葉が詰まる僕に、その人の視線がじぃ、と集中した。その先にあるのは僕のブラジャー。せめても幸いだったのは入口に背を向けていたことなのだが……それでも、言い訳できない証拠を見られてしまった。
「へぇ、そう。あんたそういう趣味ね。だから態々こんなとこで着替えてるんだ。」
「え……?」
「あぁ、良いよ。俺、別にそういうのを悪いとは言わないから。ま、世間的にどうかとは思うけど。あくまで個人の趣味の話だし?」
ん……? 今、僕はとてつもない勘違いをされてる……?
「あ、それとも彼氏の趣味? だとしたらあんたも大変だね~。でーもっ! ここで盛んないでよ? ここ、俺の城だから。」
男の人はにぃ、と薄く笑う。
「城……?」
「そうそう。俺、保健室登校のもやしっ子なの。……あ、いや、理科準備室登校?」
通りでこの部屋には理科の実験道具が少なく、ソファーや冷蔵庫など家具が多いのだ。挙げ句にはベットまである。
「ま、取り敢えずさ。着替えちゃって?」
その一言で僕は自分が上半身半裸だったことを思い出して慌ててワイシャツを着た。顔が火照っているのが自分でも良く分かる。
そうして着替え終わった僕をその人は無理矢理押し出した。
「はい、じゃあさよなら~。」
彼の笑顔を残してピシャリと扉が閉まる。ついでとばかりに内側から鍵もかけられた。
「…………。」
口止めをしたがったが仕方無い。僕はあの人が誰かにその事実を喋らないかハラハラしながら教室に戻った。
……そう言えばあの人、授業は良いのかな?
