第8章 人生って上手くいかない
「...悪かった」
「.......え?」
沖田さんの口から出たのは謝罪の言葉。しかも、本当に謝罪の気持ちが伝わってくる言い方だった。
今までの沖田さんの謝罪なんて謝られてるこっちが見下されると錯覚するような感じだったのに。
「お、沖田さん、どうしたんですか?土方さんからでも何か言われたんですか?でも、沖田さんがそんな簡単に土方さんの言う事を聞くはずがないし...。でもそれなら―――」
「うるせェな。全部俺が考えて言ったことだぜィ」
ひとりでぶつぶつ言ってた私を遮るように沖田さんは言う。
「あの夜のこと、だよ。オメーの気を悪くしちまったのならすまねェ」
「いや、別に、その、全然気にしてません。こちらこそ避けてしまってその...すみません」
全然気にしてないなんて嘘だった。1分前まではね。
でも、沖田さんの謝罪で今までのむしゃくしゃしてた気持ちがどこかに行ったというか、不思議と今は腹が立っていない。
「いいぜ、別に。俺もこの事でこれから佐藤にちょっかいかけることができねェなんて嫌だしな」
「いや、ちょっかいを出すのはやめて頂けると嬉しいんですけど」
「オメー用事あるんだろうが。早く行けよ」
あれ?私のちょっかいを出さないでについては無視ですか?
けど、うん。今はなんだか機嫌がいい。
「沖田さん」
屯所の中へ戻ろうとする沖田さんに声をかける。
「行ってきます」
前を向いたままひらひらと手を振ってくる沖田さん。
今日は、いい一日になりそう。