第8章 人生って上手くいかない
「おい、佐藤。オメー、総悟と何かあったか」
「いえ、何も。それより土方さん、この漢字なんですが―――」
「バレバレなんだよ、目を合わせもしねェし、喋らねェ、話題に出しもしない。何があったんだ」
分かってるなら最初から聞かなければいいのに。
はぁ、とため息をつくと土方さんが顔をしかめる。
さすがに態度が悪かったか。
「本当に何も無かったですよ。本当に。...沖田さんに何か変化はありましたか?」
「ん?ああ...、いや、特に何も」
「そうですか、ありがとうございます」
分かってる。何が、と言われても分からないけど分かってる。
自分が何にイラついているのかが分からない。確かにあんな事するなんて酷いし女性を舐めてると思ったけど手を出された訳でもない。
ただ、少しからかわれただけだ。
自分から仲直りを言い出すのも癪だし、まず、これが喧嘩かどうかなのかも分からない。
ていうか、悪いのは沖田さんの方だし、これが喧嘩だと仮定したら向こうから謝るべきだろう。
それより、考えるのはこれからの事だ。
今日はこれから晋助さんと出かける予定。
晋助さんがたまに使うという、前とは違う料亭に行かせてもらう。
そこの旦那さんは隠れ攘夷派で、情報漏れの心配などないらしい。
晋助さんとは話し合って、晋助さん達の情報は真選組には流さないけどその代わり真選組の情報も晋助さんに漏らさないことになっている。
そのほうが気を使わなくて済むから楽で助かる。
土方さんがチラチラと私のほうを見てくるのに気づかない振りをする。
そんなに気になるなら沖田さんに聞けばいいのに。って言っても適当にはぐらかすんだろうけど。
最近は漢字もどんどん覚えてきて、色んな本を読めるようになった。
これも土方さんのおかげだし、お礼とかも考えておこう。
「あ、俺、この後仕事入ってっから、今日はこれで終わりな」
「はい、今日もありがとうございます。お仕事頑張ってください」
「ああ。...お前もな」
「え、」
返事に困っているとさっさと土方さんは部屋を出ていってしまう。
何に対しての頑張れなんだろう、沖田さんのこと?勉強のこと?それとも他のこと?ただの返事?
ていうか、そんなこと気にしてる場合じゃない、晋助さんだ、晋助さん。