第5章 イケメンの顔よりブスの顔のほうが覚えやすい
「微かだが、煙草の匂いがする。それともオメー、煙草吸うのか?」
「いや、吸いませんけど...」
ビックリした。煙草って晋助さんの匂い?
けど、そんなスグに染み付くものなのか。
着物の袖を匂ってみるけど分からない。
ずっと一緒にいたからなのか、それとも...
「うわっ、急に顔赤くなりやがって、どうしたんでィ」
「な、なんでもないです...」
晋助さんの抱擁を思い出した。
優しく、温かい、抱擁。晋助さんに染み付いた煙草の匂い。
頭をぶんぶん横に振って頭から追い出す。
「今日オメー本当におかしいな...いつもの事だけど。
つーかその反応はそれらしい奴はいるんだな。気に食わねェ」
「え、沖田さんもしかして」
「せっかくいい雌豚が手に入ったと思ったのに」
「やっぱり沖田さんは沖田さんでした」
沖田さんは立ち上がり、どこかへ行こうとする。
「ちょっ、沖田さん、どこ行くんですか、ちゃんと仕事行ってくださいねっ」
「へいへい、分かってらァ。
ちゃんとこれからもオメーのことは雌豚として扱ってやるから安心しろィ」
こっちのほうを見向きもせずひらひらと手を振る沖田さん。
その姿が無性に腹立つ。
この調子じゃまた一眠りでもするんだろう。
「そういうことじゃないですから“馬鹿”沖田ァァァ!!!」
馬鹿のところを思いっ切り強調してどんどん離れていく沖田さんに向かって叫ぶ。
あとでやり返されるのは間違いないけどどうしても叫びたかった。
沖田さんは人をイライラさせる天才だ。