第12章 復讐の始まり
「聞かなかったことにするのか…?」
「いいえ、想いだけ受け取っておきます。尊敬してますよ、トーネルさん」
最後に優しく抱きしめるとトーネルさんは無理して笑って自分の部屋に戻っていった。
その背中は寂しそうだ。
こうなるから潜り込むの嫌だったんだよな。外から狙った方が誰も傷つけなかった。
いや、もうたくさん傷つけたもんな。
体の痛みに耐性はあっても、心の痛みに耐性はない。
自分の心臓あたりに手を当てて静かに目を瞑る。
人を殺しすぎて麻痺していたのがステラさんの死から麻痺が解けてしまって弱くなってしまっていた。
ルータスに帰って誰かに抱きつきたい。
なんて思いながら私はシルダさんの部屋の戸を開ける。
「ーうわぁっ!……え、っと…?」
開けた途端、そばにシルダさんが立っていて驚いている間に抱きつかれた。
ここの人は何か急にしてくるな、って思いながらその背中に手を回した。
「どうしました?何か辛いことありました…?」
「あった、悲しそうだった、辛そうだった」
すごい早口で言いながらさらに強く抱きしめてきた。○○だった、ってことは自分のことではないのだろうか。
「無理すんなよ、ラリー。大丈夫か?」
「お、俺ですか?大丈夫ですよ?」
そう言うと、ばっと顔を上げたと思ったらまたきつく抱きしめてきた。
「聞いてた、トーネルとの会話。なに大人ぶってんだよ…なに自分の死を受け入れてんだよ」
そう言うことか、と思い平気を装おうとした。
「俺だってまだ死ぬのは怖いんだ、なのに年下のお前が受け入れんなよっ!ふざけんなっ、生きろよっ」
しかし彼のまっすぐな気持ちが痛い心をさらに刺激する。
「シ、シルダさん…「お前みたいなのが1番腹立つ!…俺の兄貴は最後、最後に『いつ死んでもいい』って言って死んだんだぞ!勝手に置いてかれる方も考えろよ!仲間だろっ!」
息を荒くして涙を流しながらずっと私の目を見て彼は訴え続けた。
そんな彼が流した涙はとても綺麗で輝かしくて眩しかった。
「ごめんなさい…ありがとうシルダさん」
本当はここで泣きたかった。彼の大きな背中に抱きつきたかった。
でも私にその資格はない。
私はあなたの敵だから。あなたに甘えちゃいけないし、優しくされる権利もないんだ。