第3章 仮面の裏◻︎
「お待たせ」
「ありがとう」
カウンターにすっと出されたカクテル。バイオレットフィズ。スミレのような透明感のある紫色をした綺麗なお酒
度数はそれほど強くないからスガワラさんと話すのには丁度いいカクテルだ
意味は “私を忘れないで”
「度数弱いからって馬鹿みたいに呑まないでくださいよ?」
「大丈夫」
「それより、女の子不足してないっすか?最近女の子と来ないじゃないっすか〜」
「興味ないんだって…何回言えば分かるんだよ」
「俺にはそう見えねえっす!!今日の京治さん少しイキイキしてますしね!!!」
今日はイキイキしてるって…いつもはしてないってこと?いつもは死んだような顔してるってこと?
眉間にシワが寄る
「なーんかいつもより目が穏やかっすよ」
「いつも穏やかなつもりだけど?」
「あっ!信じてないっすよね?!もーなんで自分の事になるとそんなに鈍いんですか〜」
ああもう何が言いたいんだ。俺が誰かに興味が湧いたって?あるわけな……い?
あれ、あいつ。なんだっけ…ああ…あれだ佐賀美優華
俺と同じ境遇だったから少し興味が沸いていた
「恋しちゃいました??」
スガワラさんがニヤニヤと顔を覗き込んでくる
「そんなんじゃない」
まあ、ぶっちゃけ佐賀美の顔はかなりドストライクなんだけど…
他人を愛すだなんて俺には出来ない
「京治さん深く考えすぎは良くないっすよ。過去の事は忘れて今を見るんだなんて綺麗事はいいませんけど、京治さんはもっと欲を出していいんですよ」
「欲なら出してるよ」
「体じゃなくて心っすよ」
もちろん俺だって年頃の男だ。いくら冷静で淡々としてるからって性欲が全くない訳ではない
むしろ人並みより多いかもしれない
愛のない体の関係はもう数え切れない。俺の外面だけ見てよってくる女はみんな食べてしまったかもしれない
学校では冷静で真面目で優等生だとか、2年生なのに副主将でレギュラーメンバーだとか…
俺はそんなに綺麗で純真な男じゃない。
綺麗な仮面をまとっただけの汚い男だ。