第8章 FIVE
「お腹空いてませんか?
材料買って来ました、一緒に食べましょう?」
あぁ・・
ほんま、あかんわ・・
「手、離して」
「渋谷さん」
「すばるや。
すばるって呼んでくれたらチェーン外す」
何言ってんやろ、俺・・
甘えんと決めたはずやのに・・
「すばるさん」
手を引っ込めた地味子は俺の名を口にした。
俺は、ドアを閉めた。
年下の女やで・・
それもマネジャーや・・
それも地味な地味子や・・
ーカチャンー
チェーンが外れる音が響いた。
そっと、ドアノブを押し開く。
「すばるさん、何が食べたいですか?」
ニッコリ笑う地味子。
あかんってわかってんのに、甘えてまう。
甘えさせてくれる地味子が悪いねんで・・・
俺の決意を砕けさせたんやからな。
「・・きんぴらごぼう」
「ピンポイントですね」
「聞いてきたんは、お前やろ」
「そうですけど。
・・・散らかり過ぎですね、この部屋」
リビングに招き入れた途端、遠慮なく言ってくれた。
「・・気にすんな」
「牛蒡が無いのできんぴらごぼうは諦めて下さい。
丸山さんから好きな物聞いてますのでそれでいいですか?」
話しながらもテキパキと片付け始める地味子。
場所がわからない物はその都度聞いて片付けてた。
「マルから聞いたんか・・」
俺はソファーに座り、地味子の動きを見つめるだけ。
「はい、とても心配されていたのでおそらく仕事が終わったらいらっしゃると思いますよ」
「来んでええ」
そう言いながらも内心は嬉しかった。
マルなら気分が晴れるかと思って、電話しただけやった。
「はい、これ着てください」
そう言ってピンク色のエプロンを渡してきた。
「はぁ?」
「フリルが付いたエプロンが良かったですか?」
真っ白なエプロンを身に付けている地味子。
地味子のクセに女の子らしいエプロンやな・・ってそんな事じゃねぇ!
「何で俺がエプロン着けるねん!」
「一緒にご飯作りましょう」
「・・・」
「気分転換にはご飯作るのが1番です」
渋々、エプロンを着る。
ボーッとしてるのに飽きたし、何より甘えたままは嫌や。
地味子と一緒に何かしたいと思ったんや。