第8章 お茶をどうぞ、お嬢様〜執事松〜
「昔々、とある国の女王様が雪のように白くて美しいお姫様を産みました——」
読み聞かせが始まった途端、私の瞼は重くなっていく。
「——鏡や鏡、この世界で一番美しいのは誰だい?」
なんて優しい声なんだろう。
あたたかな声音が私の心を包み込む。
ずっとこの時間を味わっていたいのに、睡魔は容赦なく襲いかかる。
足掻けば足掻くほど夢の世界は私に手招きして、今にも眠りの森へと落ちてしまいそう。
「——朝になって白雪姫が目覚めると、ベッドを囲むようにして7人の小人がいました」
ああ…もうダメみたい。
おやすみなさいおそ松。
バカでクズでどうしようもないけど、今日は助けてくれてありがとう。
また明日もお話聞かせてね…
「——王子様は、一目見て美しい白雪姫に心を射止められました。そして白雪姫にキスをすると、白雪姫は眠りから……………寝たか」
パタリと本を閉じる音と共に、唇に柔らかく甘い感触がした。
ドクンと鼓動が飛び跳ねて意識が呼び戻される。
「おやすみなさいませ」
初めてを奪われ胸に甘い痛みが襲う。
こんな状態で眠れるわけない。
お願い。
行かないで。
(ねぇカラ松。本当に大切な時って、きっと今だよね?)
立ち上がった彼の袖を掴む。
「あ、あれ?」
振り返ったおそ松は、しまったとでも言いたげに頭を掻いた。そんな彼を、ありったけの気持ちを詰め込んだ主アイズで見つめる。
「ハーブティーが飲みたいんだけど」
「へ?」
「今から…2人で」
今夜はずっとそばにいて。
バカでクズでどうしようもない私だけの王子様。
——とりあえずおしまい——