第8章 お茶をどうぞ、お嬢様〜執事松〜
「ちょっと、なにしてんの!?」
眠りから目覚めれば、すぐ横に憎き顔その1がいた。
「ふぁー、ねみーーぃ。あ、おはようございますぅお嬢様ぁ〜」
私を包み込んでいた腕を剥ぎ取り飛び起きる。
「な、なんであなたが…っ!」
寝癖でボサボサな憎き顔その1は再び毛布にくるまると、毛布越しにもごもごと話しかけてきた。
「えっとぉ、寝起きはミルクたっぷりミルクティーですよねー?おーいトド松ー!早くもってきてー」
「『おーい』じゃないでしょ!だからなんで私のベッドに…!」
「だって昨日『犯人(ホシ)の王子様』読んでたら泣きながら眠っちゃったんで、朝起きて1人ぼっちだったら寂しいかなぁって」
「よ、余計なお世話です!」
そういえばそうだった。憎き顔その1は、毎晩寝る前に絵本の読み聞かせをする私の寝かしつけ担当。
昨夜——無実の王子様が主人公を守る為、自ら犯人(ホシ)になって処刑され星になる——というストーリーに、私は大号泣し泣き疲れて眠ってしまったんだ。
恥ずかしさから、私は俯き口をつぐんだ。
「はーぁ、にしても昨日のお嬢様クソ可愛かったなー」
ようやく毛布から出てきた憎き顔その1——執事のおそ松は、ベッドから降りて大きな欠伸をしながらお腹をぼりぼり掻いている。シワシワな白いワイシャツから覗くおへそがセクシーだなんて、ほんのちょっとだけ思ったり…
「うわ、朝勃ちハンパねー」
前言即刻消去。こんな品性下劣な奴に一瞬でもときめいただなんて、口が裂けて耳の穴に直結したって言わない。言うもんですか。
「おそ松!そのお粗末な膨らみをなんとかしなさい!」
「あーひでーー!中身見たことないくせにぃ!」
「いいから早く目の前から消えなさい!!」
「俺悪くねーし!お嬢様がエロいせいだし!」
「うるさいこのクズ執事!」
おそ松に罵声を浴びせながら枕を武器にして戦っていると、寝室のドアがノックされた。