第6章 さよなら14番〜カラ松〜
看守室のパイプ椅子に腰掛けると、松野看守はため息混じりに口を開いた。
「なぁ、囚人番号15番よ…。昨夜、脱獄囚が出たんだが、君は脱獄に加担したりしてないよな?」
苛立ちを隠しきれないようで、トントンとボールペンの先で机をノックしている。
「はぁ、そういえば、目の前の牢屋の壁が人型にくり抜かれてましたね」
日々の重労働で疲労困ぱいだった私は、昨夜も泥のように眠っていた。そしたら、突然の爆音に飛び起きて、けたたましい緊急警報が鳴り響く中、14番くんがいたであろう向かいの牢屋の壁に、人の形をした穴を確認したのだった。
松野看守は大袈裟にため息をつき、かぶりを振った。
「ノンノンノン、オレが聞きたいのは感想じゃあない。加担した、もしくは加担していた奴を知らないか?という話だ」
「加担してませんし、してても普通言わないと思いますけど。それに、眠っていたので何も知りません」
「そうか…そうだな。疑ったりしてすまなかった」
(なんで謝るんだろう…)
この人って、看守に向かないんじゃないかといつも思う。なんと言うかお人好しすぎる。愛すべき電波さんなのだ。
性善説…ってやつかな?私達囚人の心根すら清らかだと信じて疑わず、毎朝改心させるための自作ポエムをメガホンで語りきかせてくるのだ。
誰も聞いてないのに。
私以外——さ。
松野看守は帽子を外し、頭を抱えて項垂れている。
「オレの可愛い14番よ…何故だ!何故なんだッ!明日まで我慢すれば仮出所だったというのに!蜂の巣になるほど銃弾を浴びる思いをしてまでも脱走したかったというのか…!!」
「あ」
松野看守の言葉に、私はあることを思い出し、声を発してしまっていた。
当然、松野看守は食いつく。
「どうした15番?」
「14番くん、今日お母さんの誕生日って…」
「な、なぁにぃぃいぃぃい!!!!」
…言わなきゃよかった、と心底思った。
松野看守の涙腺が崩壊し、大変なことになっている。