第5章 眠れぬ夜に〜一松〜
「頑張りすぎなんだよ…主は」
電気を消した部屋。
ベッドの中で彼は言う。
「そんなことないもん」
「やめたら?仕事…」
「無理。野垂れ死ぬ」
「あっそ。じゃあもう知らない」
そう言って私を跳ね除けたくせに、ぎこちなく腕枕をしてきた。
「知らないんじゃないの?」
「…喋ってないで早く寝れば?」
「寝かしつけてくれてあ・り・が・と」
「ーーーッ!!だから、早く寝ろって!」
暗がりでも照れてるのがよく分かる。
だって、声がちょっとだけ上ずっている。
私はそんな彼にぎゅっと抱きついた。
私の彼氏一松は、猫と卑屈を足して2で割ったような人だ。
合鍵を渡してあるんだけれど、会いたい時だけ家に来て、エッチして、仕事もせずぐうたら寝て、自虐して帰って行く。
なんでそんなのが彼氏なのかと聞かれても、好きになってしまったものは仕方がない。
不思議な魅力のある人なのだ。
出会いは突然だった。
雨の中、ずぶ濡れになりながら帰っていた私の目の前に現れ、傘を差し出すどころか広げたまま地面に置いてのそのそいなくなったヘンテコな人。それが、一松。
もう会えないかもと思っていたけれど、私のアパートに住み着いている猫と戯れているところを捕獲して、打ち解けて、こうして付き合うようになった。
「…あれ、寝たの?」
「ふふっ、寝てません」
馴れ初めを思い返しボーッとしていたら、一松から話しかけてきた。
早く寝ろって言っていたくせに、その声は少し寂しげだった。