第22章 水に溺れる夏
「暑ッぢ〜…」
夏本番。
期末テストが迫る、今日このごろ。
「地獄だぜ…今日びクーラーのない教室とか…」
椚ヶ丘にもその波はやってきていた。
気温は35度を超え、汗がとまらない。
「だらしない…夏の暑さは当然の事です!!」
ピシッとしている『棒』。
しかしその棒を持っている人は全くもってだらしない。
「温暖湿潤気候で暮らすのだからあきらめなさい。ちなみに先生は放課後には寒帯に逃げます」
「ずりぃ!!」
サッと黒板に世界地図を書きロシアや北極の方を指す。
殺せんせーの弱点㉑、夏バテ。
教卓の上で溶けている担任を見るとなんとも言えない。
「でも今日プール開きだよねっ、体育の時間が待ち遠しい〜」
「いや…そのプールがおれらにとっちゃ地獄なんだよ」
木村くんが軽く説明。
「なんせプールには本校舎にしか無いんだから、炎天下の山道を1km往復して入りに行く必要がある」
……でもこの位暑いのあっちじゃ普通だったからな……。
私の前の街は山の麓から少し離れたところで、かなり暑かった。
まあそれと山道を登ることは別問題かな?
「人呼んで『E組死のプール行軍』。特にプール疲れした帰りの山登りは…力尽きてカラスのエサになれかねねー」
カラスのエサはやだな……。
「うー…本校舎まで運んでくれよ殺せんせー」
前原くんがけだるげに言った。
「んもー、しょーがないなぁ……と言いたいですが。
先生のスピードを当てにするんじゃありません!!いくらマッハ20でも出来ない事はあるんです!!」
棒をポイッと地面に投げ、バッテンを顔に浮かべた殺せんせーはそういった。
「…だろーね…」
聞いた前原くんも答えは分かっていたようだ。
「…でもまぁ気持ちはわかります。
仕方無い、全員水着に着替えてついて来なさい」
殺せんせーは立ち上がってうちわを持った。
「そばの裏山に小さな沢があったでしょう。そこに涼みに行きましょう」
――
外に出ると蝉の声がやけに耳についた。
じっとりとした空気と一緒にまとわりつく。
「裏山に沢なんてあったんだ」
「…一応な。つっても足首まであるかないかの深さだぜ」
仕事人コンビが淡々と話す。
「ま…水かけ遊びできるからちっとはマシか」
杉野君がふぅ、とため息をついて言った。