第15章 梅雨の話
「誰だこんな…ってやっば、こんな事よりトイレだ!!」
……大声で叫ぶからよく聞こえるなあ……。
私は追うのをストップして3人の元へ駆け寄った。
「3人とも、お疲れ様」
「京香! ありがとう!」
身軽にクルリと下りてくる3人。
後ろからみんなもついてきた。
「ま…少しはスッキリしましたかねぇ」
殺せんせーはあくどい顔で笑った。
「汚れた姿で大慌てでトイレに駆けこむ。彼等にはずいぶんな屈辱でしょう」
木の上から降りてきたばかりの前原くんは、恥ずかしそうに頭をかいた。
「…えーと、なんつーか。ありがとな、ここまで話を大きくしてくれて」
「どうですか前原君? まだ自分が…弱い者を平気でいじめる人間だと思いますか?」
このセリフは…私がいなかった時の前原くんのセリフだ。
自分がもしもE組じゃなかったら、どうしていたのか……
その答えを、前原くんは出した。
「……いや…今の皆を見たらそんな事できないや。
一見おまえら強そうに見えないけどさ。皆どこかに頼れる武器を隠し持ってる。そこには俺が持って無い武器も沢山あって…」
上手く言葉にならないのか、言葉につまる前原くんに殺せんせーはポン、と手を置いた。
「そういう事です。強い弱いはひと目見ただけじゃ計れない。
それをここで暗殺を通して学んだ君は…この先弱者を簡単にさげすむ事は無いでしょう」
「…うん、そう思うよ殺せんせー」
雨が止んで、前原くんの後ろには日が差している。
うん、めでたしめでたし。
……と。
「あ、やばっ、俺これから他校の女子とメシ食いに行かねーと。じゃあ皆ありがとな、また明日!!」
そう焦って言う前原くんに、皆は真顔。
……めでたしめでたし……なのかな?
私は自分についた水滴を拭って口角を上げた。