第8章 毒は不器用。
「こちらの生活が楽しいから、ではない。ほかの原因でだ」
……この人、自分へ向ける恋心にはほとんど気付かないのになんで生徒の心は分かるんだろうか。
「……あんまり、言いたくない事も、あるんで…」
私は俯きながら言った。蘇るのはあちらの世界での、少し痛い思い出。
「それに、そんなに大きい悩み事じゃないんで……」
私はアハハと笑った。そして付け加える。
「地球の滅亡に比べたら、ね」
「……とにかく、あまり無理はするな」
烏間先生はうまく言葉が見つからなかったのか、頭をかいて言った。
「はい、じゃあさようなら!」
私は笑顔で校庭を抜けた。もう夕日が沈みかけている。
……久しぶりに思い出しちゃったな、あっちの世界。
お母さん、お父さん。
奈津。
仁くん。
そう、早く帰りたいはずなの、私。