第9章 言葉より大切なもの
〈翔サイド〉
智くんからの突然のキスに、恥ずかしくなった…
『嫌だったよね』なんて謝るから、首を振って否定したんだけど顔を見たいなんて言う。
こんな火照った状態で顔なんてあげたら、絶対真っ赤になってるからいやなんだけど…
だって、一瞬触れただけのキスだよ?
いい年したおじさんがさ、顔を紅くしてるなんて、恥ずかし過ぎるでしょ。
今までキスの経験くらいあるけど、こんなに恥ずかしいの初めてで…
する側とされる側の違いなのかな…
昨日まで、考えもしなかった智くんとのキス…
2度目の触れただけのキスに、満足できず智くんを見詰めた…
智くんから何度も繰り返されるキスが気持ちよくて、夢中になって求めていたら、呼吸が苦しくなってきて、頭を振ってキスから逃れた。
呼吸を整えていると、智くんが背中を擦ってくれたんだけど
その時、今まで感じたことのない、体の奥にズクンと響くような感覚が襲った…
思わず声が漏れる…
再び触れられた時に感じた同じ感覚に、怖くなって智くんの腕を掴んだ。
こんなの知らない…
智くんを見ると、優しく微笑んでいて…
「ごめんね?今度こそやり過ぎだね…
大丈夫、今日はここまでね」
そう言って頭を撫でてくれた。
ホッとしたのと、今後、自分がどうなっていくのか不安で智くんに抱きついた。
未知の感覚…キスだけで体の奥に疼く物を感じてしまった俺の体は、この先どうなってしまうんだろう…
不安の中でも智くんに触れたい、触れられたいという思いは変わらなくて…
それどころか、より一層離れたくないという思いが強まった。
智くんに抱きつく腕に力が入る。
「翔くん?どうした?」
心配そうに見る智くんの瞳を見詰め
「もっと強く抱きしめてよ…」
ってねだった。
「ふふっ、やっぱり子供みたい」
可笑しそうに笑う智くん…
悔しいから俺から触れるだけのキスをした。
「…子供はこんな事しないでしょ?」
そう言ったら智くんが嬉しそうに笑って、俺を引き寄せるように抱きしめ直してくれた。