第9章 言葉より大切なもの
〈智サイド〉
翔くんが『帰りたくない』なんて言う…
びっくりして言葉に詰まってしまったら、帰ろうとするから慌てて引き留めた。
翔くんからのそんな嬉しい申し出を、断る必要なんてないでしょ?
『おいで』って手を広げれば、子供みたいに抱きつくし、『恋人がいいなぁ』って言えば頬を紅く染める。
こんなに可愛い反応をされたから、ついキスをしちゃったけど調子に乗りすぎた?
唇が離れると俺の首に腕を巻き付けて、ぎゅっと抱きつく翔くん。
大丈夫みたいだね…
「翔くん…」
そっと呼び掛けても顔をあげてくれない。
恥ずかしいんでしょ?
だから敢えて謝ってみる…
「翔くん、ごめんね?嫌だったよね?」
俺の肩に顔を埋めたまま、首を横に振る翔くん。
そこで動かれるとくすぐったいんだけど…
可愛すぎる仕草に頬を緩めながら、翔くんの頭を撫でた。
「翔くん、顔見せてよ」
「…やだ、今絶対、顔真っ赤だもん」
「真っ赤でもいいから翔くんの顔が見たいよ」
翔くんがゆっくりと顔をあげた…
でも、視線は下を向いたままで…
「可愛い、翔くん」
「…可愛くなんかないよ」
照れ隠しのつもりだろうけど、少し不貞腐れたその言い方がまた可愛いいんだよね…
本人はもちろん無自覚なんだろうけど…
あぁ、俺の理性はいつまで持つのかなぁ…
この10年、強固に固めて来たよ?
でもさ、強固な物ほど、崩れだすと一気に崩壊するんだよなぁ。