第12章 困惑と抱擁
言い終わると同時に、私に向かって再び近づいてきた。
「何が違うの?」
『私の恩人ですから…』
真後ろで足音が止まると、後ろから包まれる感覚がした。
それが、ジャーファルさんで…
私を後ろから抱き締めていると実感するまで、数秒かかった。
「ゃッ!!離して!!」
『私の言う事をきかないからです。ほら、こんなに冷えて…』
暴れる私の手を、少し大きな手で温めてくれている。
「…こんな…こんな事しないで!!」
『私は、私です』
「─ッ!?」
『貴女が重ねている人物ではない。シンドリア王国の政務官。ジャーファルです。貴女に命を救ってもらった。そして…貴女に…心惹かれている。ただの男です』
思いがけない告白のセリフに、拒絶するどころか固まってしまった。
心…惹かれている?
会って間もない、私に?
「貴方は、私の何も知らないわ」
『そうでしょうね。しかし、昔シンに言われた事があります』
「?」
『心を奪われ、恋をするのは一瞬、だと…』
「そう…かもしれませんけど…
私は、貴方とは違います」
私らしからぬ答え。
拒絶すれば済むのに…
腕を振り払えれば…
『違うかもしれない。しかし…貴女がいいんです』