第11章 苦しみと推測
おかしい。ジャーファルさんにだけ見えたり聞こえたのも、そうだが…
あの嵐は、もしかすると…
「…ちなみに、行方不明になった船の残骸はありましたか?」
『…いえ、何処かに漂着した形跡もないのです』
やっぱり…
「だと、すると…歪みに巻き込まれたのかも…」
『ゆがみ?』
「詳しくは、シンドリアに帰ってから説明しますが…
別の世界に、飛ばされたのかもしれません」
『飛ばされたって…じゃ、行方不明になった船や人は!?』
「この世界では、見つかりません」
『そんな…あるわけがない。非現実的すぎる…』
「非現実的?おかしな事を言うんですね。じゃあ、貴方の前に居る私も、非現実的で有り得ない存在なんですか?」
『……』
「では、貴方が見た女性は?私には見えなかった。それも、非現実的。
貴方は、もう少し利口な人だと思っていましたが…買い被ってしまったようですね」
『…だったら…』
「何です?」
『貴女は、何を知っていると言うんですか!!いきなり、私達の前に現れて…』
「…それから?」
『え?』
きっと、ジャーファルさんは何か言いたい事を言えなくて、イライラしてる。
「言いたい事は、言って貰っていいです。貴方と一生関わる訳ではないので、言いたい事はハッキリ言って下さい」
『…ッ…何なんですか。突き放してみたり、言いたい事を言えとか…』
「言いたい事が言えないから、イライラしてるんです。何でも、言えばいいんですよ」
『何で…そんなに…優しくするんですか…』
「自分には、厳しくしたいの。だから、その分…人には優しくしたい」
『…それなら…言わせて貰います。貴女は、誰と重ねているんですか?』
「……」
重ねてる?
ジャーファルさんを…"あの人"と?
そんなはずない。全然違うもの…
話し方も、見た目も、雰囲気だって…
「重ねてなんかいないわ」
『…私には、言いたい事を言えというのに…貴女は、何一つ言わないんですね』
言いたい事なんてない。
いつかこの世界から離れれば、貴方は私の事なんて忘れるんだもの。
私の事なんて、聞かない方がいいのよ。