第9章 苛立ちと時間
ピス『……ちゃん…紫水ちゃん!?』
「ッ!!ごめん…考え事してた…」
シンドリアを出航してから、2、3時間だろうか?
立ちながら居眠りとは、我ながら驚くが…
また、"見えた"。
十中八九…ここでの事だ。
「嵐がくる。皆、中に入った方がいい」
ピス『さっき、船長さんも言ってた。"荒れるらしいよ"』
ほらね
だとしたら、ジャーファルさんは…
「ジャーファルさんは、船旅は結構するの?」
ジャ『そうですね。外交などで、他国に行く時は船しかありませんからね』
「そうなんだ。今日は、嵐で荒れるらしいよ」
ジャ『確かに…雨雲が見えますね』
遠くでは稲妻の音が響いている。
かなり大きな嵐。
ジャ『"貴女達は、中に入っていなさい"』
あぁ、嫌だ。先が見えるって…
この流れだと、ジャーファルさんが…
───
──ザバァーン
大きな波と雨の音が、ひどくなった頃。
甲板へ上がる階段の前で、一人の男性が蹲(うずくま)っていた。
「どうしたの?」
『人が……船の…前の方……に立って……海の、上を…歩いてた』
ガタガタと震える唇から、そんな言葉が出た。
「こんな嵐の中で?」
『こっち、を…見て…ニヤリと、笑ってた…』
「それは、いつ見たの?」
『ついさっきだ…腰が抜けて…立てなくなっちまった』