第1章 .袖振り合うも多生の縁
雨の日
顔も知らない名前も知らない誰かに傘をパクられた。
そんな可哀想なアタシは教師に事情を説明して傘を借りようと試みていた。
(……ここどこ)
だが迷った。
職員室はそんなに遠くはないはずだ。とまっすぐ進んで階段降りてを繰り返し、何も考えず軽率な行動をした少し前の自分を恨んだ。
目の前には体育館。
明かりがついていて、音が聞こえる。
ボールが床を弾く音。
シューズが床を鳴らす音。
点が入った時のホイッスルの音。
(バスケだ…)
全ての音がアタシを魅了した。
そしてふと、高校生になった今、聞こえるはずのない音が聞こえる。
ボールに触れる時間が極端に短いため聞こえる、独特なパスの音。
中学生の時、散々聞いた
あの、懐かしい…
(…え?
まさか、そんなはずは)
気になって、小窓から中の様子を覗く。
「……」
言葉を失った彼女が見たものは、
夢か、現実か、
はたまた幻の六人目か____