第5章 すれ違いバースデー
side灰羽
仕事中、泣きそうになりながら席に戻ってきた梢。
少しでも早く笑顔に戻って欲しくてデスクに転がした一口チョコ。
そいつのおかげで眉間のシワを少し和らげることができた。
お昼休みの鐘が鳴り、月島はさっさとデスクから離れていく。
俺も昼飯食べよう、なんで席を離れようとすれば、くんっ、と引かれるスーツのジャケット。
「灰羽くん、お昼奢るから…話、聞いてもらってもいい?」
椅子に座ったままの梢の必然的な上目遣い。
忘れかけた梢への恋愛感情がむくりと顔をもたげはじめる。
いやいや違う。
俺に吐き出して少しでもスッキリするなら、と梢に了解の返事をすると、俺たちは食堂へと向かった。
いつも弁当持参の梢。
今日は珍しく社食らしく財布を抱えている。
いつもは野菜と肉、なんてバランスよく食事をとるけれど今日はめちゃくちゃ。
醤油ラーメン、チャーシュートッピング。
ミニサイズの唐揚げ丼。
ついでに日替わりコロッケ2種類(今日はチーズ入りのメンチカツと明太クリームコロッケ)を1つずつ。
それを頂きますの言葉以外無言で平らげた梢はラーメンのスープを飲みきりため息をつくと、ぽつぽつと話を始めた。
「最近、2人とも仕事仕事で会えないから、せめて27日の夜だけでも空けてほしいって言ったの。
そしたら"その日は取引先との食事会。"だって。
ごめん、とか申し訳ないけど、とか謝ることもなく無理だって。
少しは可愛げのある言い方したらいいじゃない。
だから、もういいわかった馬鹿。って言っちゃったの。」
「そりゃあ言いたくなるよ。」
社食限定秋のスイーツ(今日はモンブランとかぼちゃプリンの
パイ)を2人で分け合いながら話を聞いた。