第5章 すれ違いバースデー
その日僕はイライラしていた。
「だから、それは違うでしょ。先方はこうがいいって言ってるんだからこうなの。」
タン、とキーボードのエンターキーを音が出るくらい強く叩き、デスクに向かって座る僕の隣に立つ梢を見上げる。
その表情は、怒りのような涙を堪えているようなそんな顔。
「たしかにっ…そうかもしれないけれど、でも…」
「先方の意見に沿うのが一番でしょ。椎名サン。」
ふいと目線をそらし、彼女の意見をシャットダウンする。
ちらりと目の端に見えたタイトスカート。
それは彼女の手でぐしゃりと布地を歪ませていた。
「わかった。」
彼女は一言呟くとコツコツとヒールを鳴らし自席へ帰って行った。
…と言っても梢の席はパソコンを挟んで向かい側。
僕の席からは顔が覗けてしまう。
キーボードをタイプしながら前を覗き見ると、案の定彼女は瞳に涙を溜め、眉間に皺を寄せている。
流石に言いすぎたしフォローのメールでも送るか。
そう思った矢先、梢のデスクにころりと転がる何か…もとい一口チョコ。
それは梢の隣のデスクの灰羽が放ったもので、それを見た梢の顔は先ほどよりふわり、と緩む。
もやり
イライラが、増す。
そんな気持ちを渦巻かせながら、やっと昼休憩を指した時計を僕は睨むように眺めた。