第11章 逃がさねぇよい
宴は大いに盛り上がっていた。
小躍りする男に、野次を飛ばす男。それを笑う男達。
その様子を沙羅は少し離れた木陰から嬉しそうに見つめた。
懐かしい顔ぶれ。
新しく家族になった者達。
ジョズの豪快な笑い。
ビスタの冷静な突っこみに、
大袈裟にずっこけるサッチ。
“よかった”
家族が笑顔でいてくれる。
それがどんな幸せなことか、今の沙羅には痛いほどわかっていた。
残念なのは白ひげの姿が見えないこと。
そして、マルコがいないこと。
“会いたかったな”
小さく溜息をついた。
しかし、いつまでも眺めているわけにはいかず、沙羅は身を翻した。
「・・・」
思わず目を瞬かせた。
いつの間に後ろにいたのだろうか。
小柄な王子様のような服装の青年が目の前に立っていた。
驚いて一歩下がれば『沙羅、久しいな』とビスタの声。
それならば、海の方へと右を向けば不敵な笑みを浮かべたジョズ。
そして、『沙羅ちゃん、元気だった?』と左からサッチの声がした。
「ア・・・」
声にならないくらい小さな声が沙羅から漏れた。
だが、その判断は早かった。
『シャリ・・・シャラリ・・・』
特徴的な音が4人の耳に届く、瞬間、沙羅は空中へ浮かび上がり、目の前の青年を飛び越えた。
「あらら、ハルタ、越えられちゃったじゃん」
サッチは笑い、小柄な青年、ハルタは苛立ちを顕わにした。
「追うぞ」
それでもビスタの声よりも早く、走りだした辺りはさすが隊長達であろう。
ハルタを越えて市街地へ向かった沙羅は海に向かって進路を変えて走った。
海にさえ出れば逃げるのは簡単だった。
林を縫うように走り・・・。
“!!”
そこで沙羅は飛びすさった。
今まさに、自分が足を出そうとした所に撃ち込まれた銃弾。
「やっぱりいい勘してるじゃねぇか」
沙羅が避けられると、確信を持って撃ち込んだその銃弾の主は艶(ツヤ)やかな笑みを浮かべていた。
“似ている”
思わず沙羅は見つめずにはいられなかった。
顔、形は全く違うが、醸し出す雰囲気が母のように慕っていたお琴を思い出さずにはいられない。
そんな沙羅の反応を楽しむようにイゾウは“くつり”と笑った。